ベトナム教育界の深刻な課題:教員不足とその背後にある問題
毎年8月はベトナムの教育界で一年間の成果と課題を振り返る時期です。この重要な時点で、首相が参加する形で教育訓練省が年次総会を開催し、教育界の核心的な課題を提起します。今年も8月18日に開催され、様々な問題が明示されましたが、特に注目すべきは「教員不足」という、根深くも重大な問題です。
データから見る教員不足の実態
2023年現在、ベトナム全体での教員数は約123万人。しかし、足りない教員は約11.8万人とされており、特に幼稚園の教員が5.2万人不足しています。この数値からも、教員不足の深刻さがうかがえます。 特に、ハノイ市とタインホワ省(北中部)では教員不足が喫緊の課題となっています。なぜ首都であり最大都市の一つであるハノイ市で教員が不足するのでしょうか。
教員不足の原因:資格と報酬のアンバランス
教員不足には多くの要因が考えられますが、一つの大きな要因は「教員資格の取得難易度と給与水準のアンバランス」です。ベトナムで教員になるためには、法律により特定の大学卒業が必須であり、これにはハノイ師範大学やホーチミン師範大学など、トップレベルの大学が含まれます。 一方で、新任の公立教員の平均月収は約500万ドン(約3万円)、経験豊富な教員でさえ月収1,100万ドン(約6.5万円)です。ITエンジニアの初任給が1,000ドル近くと比較すると、教員の給与水準の低さが明らかです。特に都市部では、他の就職機会と比べ教員は見劣りする傾向が強い状況です。
表1:2023年の教員平均月収(1ドン=0.6円換算)
学齢 | 平均月収(万円) |
幼稚園 | 1.9〜5.7+35%手当 |
2.5〜7.3 | |
2.1〜6.0 | |
2.1〜6.0 | |
(参考)平均収入_全国 | 2.8 |
(参考)平均収入_都市部 | 3.6 |
副業:教員たちの必要悪
このような給与体系の中で、多くの教員は副業に手を出しています。中学や高校の教員は受験対策として塾の講師を務める場合も多く、副業による収入は多くの場合公的な収入を上回ります。しかし、幼稚園教師にはこのような選択肢が少なく、収入向上の道が限られています。
政府の対応と今後の展望
政府もこの問題に対処するため、教員資格取得の敷居を下げたり、特別手当を提供するといった方策を打ち出しています。具体的には、一部小学校教員については大学卒業要件を緩和したり、2023年7月1日から幼稚園・小学校教員に対し最大35%の手当を追加しています。
しかし、教育予算には既に限界が見えており、中国のような私教育禁止の方向に進む可能性も考慮に入れるべきです。すでに国庫からの教育支出はGDP対比で4%を超えておりASEANではトップの支出率になります。
私見では、ベトナムの経済基盤がまだ弱いことを考慮すると、副業は当面「必要悪」として許容されるでしょう。これが教育格差の拡大を招く一方で、ITの活用によりこの格差を埋めるチャンスも広がっています。E-learningの推進、学校内でのE-learningの活用が進むことで、ベトナムの教育環境は改善する可能性が高いと予想されます。 企業がこの成長する「公的教育外の教育市場」に注目することで、今後さらなるビジネスチャンスが広がるでしょう。
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