出資の基礎知識:その1|全体のながれ

今回は出資(少額出資や買収など)の一連のながれをご説明します。出資には専門家がおおく関わるため、難しいイメージがあると思います。企業戦略、会計、税務、ファイナンス、法務、人事・労務、技術における専門要素が必要とされます。

本稿シリーズでは、会社員を対象に、専門知識がなくても投資の基本的な流れを説明します。 なお、上記分野それぞれを深く理解するのは無理です。投資分野に携わる人の中でも、1人ですべてをまわせる人は非常に限られると思います。

ステップ1|出資への意思と戦略の作成

まずは、出資したいという意思、もしくは出資してほしいという相談からスタートします。

会社のお金を使いますので、なぜつかうのかという説明が必要です。これが出資戦略になります。

ここで、陥りやすい誤解が
「戦略を練ってから具体的な案件を探す」
という考え
です。特に、出資担当者や中間管理職は注意してください。

皆さんの上司は、検討プロセスよりも結果を求めています。満を持した出資戦略を語るあなたの前で、意思決定者は「で?具体的には?」と考えています。

私は、出資を結婚に例えることがあります。出資戦略は、結婚でいう「理想の相手像」です。ご両親や友人に「私にはこんな人がベストだ!」と説明したときの反応を想像してみてください。

結果、戦略資料は、戦略とその戦略を実現する具体的パートナー候補名が同時に記載されている必要があります。この段階ではパートナーが付き合ってくれるか分からない、そのパートナーがベストかは重要ではありません。重要なのは、その理想に合致する会社がこの世に存在しているという事実です。

ステップ2|ロングリスト・ショートリストの作成

ロングリストとは、戦略に合致しそうな会社の一覧です。ショートリストとはその中から、戦略的に有望と思われる会社の一覧です。超絶ロングリストであなたの頑張りを見せたくなるかもしれませんが、意思決定者はショートリストしか気にしません。しかし、質の良いショートリストを作るためには、ロングリストが重要になります。

市場によって水準はことなりますが、概ねロングリストは1分野あたり50〜100社以上、ショートリストは20社以下のイメージです。日本企業や大企業だけに絞る場合は、もっと少なくなります。

ロングリストからショートリストに絞るなかで、ステップ1の戦略の粗さが浮き立ちます。会社を取捨選択(ロング→ショート)するなかで、会社選びの基準が不足している、不明瞭だということに気づきます。ここでステップ1にもどることは良いことであって、恥ではありません

ステップ3|リストへの初回コンタクト

各社の実情、出資を受け入れる考えがあるかを確認します。ここは、担当者レベルで行います。御社が出資先を探していることを隠したい場合は、投資仲介会社や銀行、証券会社などの「ミドルマン」をつかいます。

気にしない場合は、直接コンタクトや人脈経由で接触をはかります。この場合でも、ミドルマンには念のため情報提供をお願いします。

ミドルマンのメリットは、匿名性を保てること、リスト作成が楽になること、出資受入可能性の高い会社情報がでてくることです。一方で、デメリットは「売りたがっている会社」が多いことです。売りたい理由の中には、買い手にとって良くないものが含まれるものです

ステップ4|責任者ミーティング

ステップ3で興味ある会社が出てきたら、御社の出資責任者と先方の意思決定者(多くは社長や役員)とミーティングを行います。これは、お互いの本気度を示す意味でもあり、同時に出資責任者が自分ごととして物事を捉えるためです。

「百聞は一見にしかず」。出資責任者が相手企業を訪問しているかしていないかは、意思決定スピードに大きな差を産みます。

ステップ5|基本合意

書い手と売り手の間での「出資を前向きに検討しますよ」という合意です。基本は、売り手からの希望で行います。本格検討に入ると、売り手は機密情報の開示準備に多くのリソースを割きます。一方で、買い手は情報を要求する側で、負担は売り手より小さいことが通常です。

ですので、売り手は「真剣に考えてくださいね」といった意味で、基本合意を求めます。基本合意の中身には、検討期間や基本的な条件(出資比率や出資金額など)が含まれますが、決まったものはありません。合意形式としては、社長同士のミーティング実施やLOI(Letter of Intent:出資意向表明書)の提出などのバラエティがあります。

買い手では、この段階で会社内である程度の正式合意形成を行います。ここらへんからフィナンシャル・アドバイザー(通称FA:エフエー)が入ることもあります。

ステップ6|価格交渉・デューデリジェンス

価格交渉と基本合意は前後します。価格は、一旦提示するとアンカリング効果が生まれるため、お互い価格提示を渋りがちです。

私は、投資においては価格が8割を決めると思っています。ですので、ここで価格合意を先送りにすることは大きな無駄を生みます。ですので、交渉初期段階である程度の価格合意をおすすめします。

しかし、価格を決めるには相手事業の深い理解が必要です。ですので、財務諸表と将来事業計画だけ先に受取り、Pre-Valuationを行います。この段階では、ピタッと決まった価格ではなく、価格幅で合意します。

その後、デューデリジェンスに入ります。略してDD(ディーディー)と呼ばれます。簡単に言うと、相手の身辺調査です。「嘘ついてたり、隠してることないよね?」という確認作業ですが、ここが一番稼働がかかる作業なくせに、あまり社内で重要視されないため、嫌になることが多いです。

規模によりますが、この段階で税理士、弁護士、弁理士、ITセキュリティ会社などが参加します。

ステップ7|タームシート作成・契約交渉

価格交渉やデューデリジェンスを行いつつ、契約作業を行います。

稀に、このタイミングで事業提携の内容がボトルネックになります。経営企画中心に出資の話は進めていたが、事業側の提携の話が間に合ってなかったという状況です。

この段階で事業提携の内容を契約書に落とすため表面化することがあります。「あれー、契約書スッカスカだ」という悲しい事実にぶつかります。

ステップ8|クロージング

正式な契約合意です。クロージング条件(今は詳細を知る必要はないです)を確認したり、両社の取締役会のタイミングをそろえたり、署名作業など、地味ですがミスれない作業が続きます。

ステップ9|資金払込と株名義の書き換え

お金を払い込んで、しっかり株式名義を書き換えてもらう作業です。買収の場合は、買収会社の臨時取締役会などの作業が発生します。

今回は出資の基本的な流れを説明しましたが、今後、一つ一つのステップを詳しく話していきます。


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