出資の基礎知識:その2|出資戦略の作り方

前回の投稿では投資戦略全体の流れについて説明しました。今回は、その初めのステップである出資戦略の構築方法に焦点を当てます。このステップが非常に重要であるにもかかわらず、十分に重視している企業は少ないと感じます。

最低限押さえるべき項目

出資戦略の作成に関わる担当者であれば、以下の要素を最低限確認する必要があります。

  1. なぜ出資するのか
  2. どこに出資するのか
  3. いくら出資するのか
  4. いつまでに出資するのか
  5. だれが出資するのか

1. なぜ出資するのか

出資以外にも企業価値を高める選択肢が存在します。例えば、社内投資で既存事業を強化する、新規事業を自ら立ち上げる、あるいは株主へ資本を還元する、といった選択肢があります。出資が選ばれる理由は通常、中期から長期の事業計画と密接に関連しています。それが売上、営業利益、ROCE(資本効率)などの目標達成の一つの手段となるため、事業計画との連携は不可欠です。

理論的には、出資は社内リソースだけで達成できない目標に対して行うべきです。しかし、実際に何が「社内で達成できない」かを証明することは非常に難しく、場合によっては他部署を批判する形にもなりかねません。従って、出資の理由としては「社内リソースでも可能かもしれないが、出資によって速度を上げられる」という程度の説明が現実的です。

2. どこに出資するのか

この部分は出資戦略の中でも特に重要です。明確な基準がなければ、後のフェーズで必ず手戻りが発生します。

既存事業の強化や新規事業の構築において、具体的な課題を明確にすることから始めます。例えば、既存事業の場合、販売数を増やす、ファネル通過速度を上げる、解約率を下げる、顧客単価を上げる、顧客獲得単価を下げるなどの具体的な目標が考えられます。一方、新規事業の場合は、新しい顧客基盤の構築、ブランドの認知度向上、市場の理解を深化させる、といったアプローチが必要になるでしょう。

出資先を選定する際、あなたの会社の強み・弱みを理解することが重要です。これには、経営企画部や営業部、開発部などの各部門との連携が不可欠です。具体的には、それぞれの部門が現場で感じている課題やニーズを深堀りし、それを基に出資先候補にもとめるものを決めていきます

この過程を怠ると、社内の稟議プロセスで必要な支援や承認を得ることが難しくなるでしょう。また、出資後に期待したシナジーが得られないリスクも高まります。したがって、出資戦略の策定時には、他部門の意見やフィードバックを十分に取り入れ、社内全体としての方針や課題を明確にすることが重要です。

一方で、だれもが他人に弱みを指摘されることを嫌がります。営業に関する弱点を経営企画部が社長の前で指摘したら、営業部長はどう思うでしょうか?ここには論理だけでは通らない感情論があります。一見無駄に見えますが、相手からの信頼を得るべく、頻度高く対話することが絶対に必要です

3. いくら出資するのか

出資額の設定は財務部との密接な調整が必要です。しかし、この金額を早い段階で固定するのは、多くの場合においては不適切です。なぜなら、具体的な出資先やプロジェクトが明確になるまで、正確な額を設定することは難しいからです。

出資先が明確になった場合、その企業やプロジェクトの規模、潜在能力、必要なリソースなどを詳細に評価することで、更に精緻な出資額の計算が可能となります。この段階で財務部と再度調整を行い、リスクとリターンを評価した上で最終的な出資額を決定します。

また、出資を行う過程でミドルマンが関与する場合、その初期段階で「予算はどれくらいか?」という質問が必ず出てきます。このため、事前に財務部と概算の予算について調整し、ある程度の範囲内での予算を設定しておくことが推奨されます

このように、出資額の設定は一度きりのものではなく、プロジェクトの進行に応じて柔軟に調整されるべきです。そして、それは財務戦略とも密接に連携し、全体としての企業価値を高める方向で調整されるべきです。

4. いつまでに出資するのか

出資のタイミングは事業計画と密接に連携する必要があります。多くの企業は中期または長期の事業計画を持っており、その中で特定の目標を設定しています。例えば、3年後に達成すべき売上目標や営業利益目標がある場合、その目標達成に向けたスケジュールに出資活動を組み込むことが求められます。

しかし、理想的な出資先がすぐに見つかるわけではありません。そのため、事業計画の時間枠を考慮しつつ、出資可能な企業やプロジェクトをステップバイステップで評価していくプロセスが必要です。また、出資先が決まった後も、その成果がいつ表れるか、いつその成果を組み込むかといった具体的なマイルストーンを設定することが重要です。

さらには、部署ごとの年間目標や四半期目標との整合性も考慮する必要があります。出資が直接的に何らかのKPI(Key Performance Indicator)に貢献する場合、そのタイミングを各部門の目標に合わせて調整することで、全体として効率的な進行が可能となります。

このように、出資のタイミングは単に「いつまでにするか」という問題以上に、企業全体の事業計画や各部署の目標とどのように整合を取るかという複数の要素を総合的に考慮する必要があります。

5. だれが出資するのか

出資の最終決定は社長や取締役会が行いますが、候補の選定には多くの時間がかかるため、そのプロセスにも明確なフローが必要です。たとえば、ショートリストへの絞り込みは特定のチームが行い、その基準は「どこに出資するのか」で設定した基準に従う、といった方法が考えられます。

このようなフレームワークを持っておくことで、出資戦略がより明確になり、結果として成功の確率も高まるでしょう。以上の5つの項目は出資戦略を考える際の基本的な要点ですが、これに加えて考慮すべき点も多く存在します。それについては、今後の投稿で詳しく説明していきます。


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