飛行機で『口笛吹いて』を読んで考えさせられるの巻


バルセロナに帰るにあたって、ニューヨークのブックオフで重松清さんの『口笛吹いて』を買いました。重松さんの描く「昔思い描いた理想と、目の前にある現実のギャップ」が好きで、日本に居た時はよく上野駅の本屋に通ったものでした。

JFK空港からスイスのジュネーブ空港までの間を持たすためだけに読み始めたのですが、なんとも昔と違った現実感がそこにあり、機内の時間は一瞬に過ぎました。

中でも、書籍のタイトルともなっている短編小説『口笛吹いて』読んだ後は、そこに描かれた現実が頭の後ろの方に引っかかって、周囲の乗客が寝静まった機内で一人ボーっとしていました。

ストーリーは、主人公が幼少のころに憧れた同郷の先輩「晋さん」と、仕事を通じて出会うことから始まります。晋さんは主人公が物心ついたときからの憧れの兄貴分であり、「10年に一人の逸材」として野球の名門高校へ引き抜かれる同郷の誇りでもありました。しかし数十年の時を経て、晋さんはうだつの上がらないサラリーマン課長として主人公の前に偶然姿を現します。髪の毛は薄くなり、部下から軽んじられる晋さんに、ヒーローであった時の姿を重ねようとする主人公。一方、自身の過去に対し徹底的に無関心でいようとする晋さん。皆と自分自身の期待を一身に背負いながらもその期待にこたえられなかった過去が、期待自体を抱くこと、抱かれることへの逃避を生む。

3年前なら、ここまで印象深く思うことはなかったと思います。きっと他の重松作品と同じ良さを感じただけで終わったでしょう。しかし、MBAの授業を受けてニューヨークからジュネーブに飛行機で帰る自分が、一瞬だけ挫折前の晋さんと重なる気がしたのです。晋さんが名門高校入学前にレギュラー確約の証としてもらった「黒い帽子」、そして結局一回もかぶることの出来なかった「黒い帽子」が、今の「MBA」という自分の立場と重なって見えたのです。高校入学前「まあ、そういう実力の世界が、わしには似合うとるけんの」と言った晋さんは、その実力の世界で味わった挫折を一生引きずりながら生きている。自分も何時そうなるか分からない。

重松さんの作品は出版された後も読者と成長(または後退)を続ける、そんな感じがした一冊でした。




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