エンジン破損から思うエアバスの限界

最近記事になったA380のエンジン破損に加え、カンタス航空所有のエアバス機3機からオイル漏れが見つかったそうです。こうした記事を見ると、エアバスの終焉を感じえません。


先日エアバスのトゥールーズ工場を訪れた際の投稿にも書きましたが(「エアバス訪問!エアバスの将来は霧の中?」)、エアバスが効率や利益を優先する会社というよりもフランス・ドイツの政策会社と思えてなりません。もちろんボーイングだって、軍事に触れる以上アメリカの政策を背負っていることは間違い無いですが、エアバスでは政治的理由が経済的理由を完全に超越しているように思えるのです。


まず、僕なりにA380の強み弱みを考えてみました。

強み:
最大乗客数
航続距離
目新しさ

弱み:
2階建て対応の空港設備が必要
高価
専用トレーニングが必要

こうして見てみると、短距離を数多く飛ばすよりも長距離を一発飛ばす方が良さそうに思えます。空港設備の制約から地方空港では発着陸できなそうですし、ファーストクラスやビジネスクラスの価値が高まる長距離の方が、高価な初期投資を回収するのに都合が良さそうですので。

一方、今や世界で最多の乗客を運んでいるのはRyan Airで、ヨーロッパと米国を震源に格安航空会社の波が押し寄せています。こうした会社は、費用を最大限おさえることで差別化を図っています。具体的な傾向としては以下の点が見てとれます。

・ファーストやビジネスクラスを置かない
・空港利用料が安い地方空港を利用
・着陸から離陸までの間を限界まで削減し、機体の回転数を上げる
・機体の回転数を上げるため、短距離フライトに集中
・機体の種類を絞り、トレーニングや整備コストを抑える
・飲み物や食事など“サービス”は全て有料

このような特徴を考慮すると、A380は格安航空会社にとって全く無縁な存在になります。

すると、A380の主要顧客は、アジア、アフリカ、中東、オセアニアのフラッグキャリア、あるいはFEDEXなどの輸送会社となりそうです。さらに絞っていくと、長距離路線を使うだけの、さらにはファーストやビジネスクラスを使うだけの所得がある国である必要があります。更には巨大な国際空港を持っている国である必要があります。具体的には、シンガポール、日本、韓国、香港、中国、オーストラリア、南アフリカ、バーレーン、サウジアラビア、UAE、イスラエルが考えられます。事実、カンタス航空(オーストラリア)、シンガポール航空、エミレーツ航空(UAE)といった長距離フライトの多そうな会社(アメリカやヨーロッパから遠い会社)が、A380を数多く受注しています。

話は変わりますが、2兆円と言われる開発費の元を取ろうとしたら幾ら機体を売る必要があるでしょうか?1機体の売値が300億円程度と見積もって60億円が税引き後利益(利益率20%)とすると300機体程度販売すればトントンです。ターゲット国の数が10国程度とすると1国あたり30機。ボーイングとの競争やエアバス他機体の存在を考えると相当な数と言えます。 しかも、年間製造数が20機程度であるため、300機を製造するには15年。さらに、この計算には資本コストが一切考慮されていませんし、A380のためだけに新製造ラインを作っていることを考えば20%という利益率は高すぎる仮定と思われます。

かなり昔に始まったプロジェクトであったため、格安航空会社の躍進をここまで見通せなかったかも知れません。しかし、僕には経済的利益をあまりに無視しているように見えてなりません。90機の発注を行っているエミレーツを除けば、エールフランス、ルフトハンザはエアバスの主要顧客の1つで、両者でヨーロッパ市場をほぼ独占してい ます。 このため顧客側も大きく政治に絡んでおり、結局はフランス・ドイツ政府が自給自足している感があります。従って、巨大戦艦A380もエールフランス及びル フトハンザが購入することは暗黙の了解だったのでは無いかと思います。そうした政治の中で生まれたのが、時代を無視したA380な気がします。

こうして考えるとスカイマークによるA380の購入は「錯乱?」としか思えません。

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