日本のITサービスが世界で戦うための戦略 その1:英語軸②

前回の投稿「日本のITサービスが世界で戦うための戦略 その1」でお伝えしたように、世界同時多発的にサービス導入が始まるITサービスの世界においては、英語軸で考えることは基本です。

日本でも使われるSlack、日本でしか使われないLINE WORKS

Slackが日本に法人登記したのは2017年で、その段階ですでに50万人のアクティブユーザーを抱えてました。50万人の多くは英語のウェブサイト、英語のサポートを苦にせずSlackを導入していたのです。

同様に、Atlassianが提供するJIRAを利用するアジア人エンジニアは多数います。その多くはベトナム人であったりミャンマー人などの非英語国のユーザーであり、彼らは英語UIを使いこなします。

逆に、アジアにおいてLINE WORKSbacklog利用者は非常に少ない状況です。欧米ブランドや純粋な機能差という意見もあるでしょうが、そもそもアジアにはLINE WORKSbacklogが存在しないのです。それは、ウェブサイト自体が日本語軸で作られており、情報量も少なく、英語検索に対して最適化していないためです。(正確にはbacklogは欧州進出により、ようやくサイトが更新されてきています)

日本語サイト
英語サイト
日本語サイトにある「導入事例」や「利用ガイド」がない
WhatsApp圏において"Business version of LINE”は通用しない

英語サイト
表記が日本円のため閲覧者は価格をイメージできず

日本は「カドのないツール」を生み出す運命にある

日本企業にとって、日本市場は主戦場です。
営業人員やマーケティング人員を抱え、業種別に戦術を変え、日本市場全体を取りに行こうとします。
「もう◯◯業種は刈り取ったから、次は◯◯業種だ!」
ターゲットを次々に変え、あわよくば1億2千万人を狙うのです。

この発想で海外に出る企業の多くは食品製造業です。狙った国に生産拠点を構え、最大多数を取りに行く戦略です。ヤクルト(韓国)、エースコック(ベトナム)、味の素(タイ)などが該当します。
食品製造の場合、鮮度を保つための物流や味覚や知覚に合わせたローカライズが生じやすく、必然、進出に伴って大きな投資(固定費)がかかります。固定費を回収するためには、多数のユーザーを確保して行くのが王道です。

IT企業も、日本に本社ビルがあり、多数の開発陣と営業人員が存在します。そこには固定費が存在します。だからこそ、日本市場での刈り取りに躍起になります。
この帰結にあるのが「日本人が欲しがる機能をもれなく搭載したツール」です。
どの業種や職種にも尖らず、カドのないツールが出来上がります。世界でこれを成し遂げているのがマイクロソフトでしょう。

一方、英語圏のIT企業は少し様相が異なります。彼らも、米国に本社ビルがあり、多数の開発陣と営業人員を抱えます。しかし、彼らのサービスは米国市場ではなく、英語市場を対象とすることができるため、全米を刈り取る以外の選択肢として、「英語圏の営業業種」を刈り取る(Salesforce)という概念が存在するのです。

全米を刈り取るために、ターゲットと提供価値を毎年付け足すのではなく、ターゲットと提供価値を変えず、提供価値が刺さる国を広げていく方法です。尖ったツールです。

ITツールは国境を越える

製造業では、調査⇒進出⇒販売という流れが基本です。しかしITツールはその逆が可能となります。つまり販売⇒進出⇒さらに販売という形です。
SlackもWrikeAppAnnieも、「日本でユーザー多いな」とわかってから日本法人を作っています。 つまり、上述の英語圏のIT企業の国の広げ方は、製造業モデルと比べると非常に低コストで進められます。

ターゲットと提供価値をしっかり決め、それを最大多数が読める言語でアピールし、刺さった国から攻めていく、という戦略です。

日本語ベースの英語サイトは無意味

一方、日本語ツールは「多数に受ける多機能ツール」となりがちなのは説明のとおりです。そのツールを説明する日本語サイトも「盛りだくさん」になるのは当たり前です。これを英訳すると、100%ターゲットと提供価値がぶれます。誰の何の困りごとを解決するツールなのか、がわからないサイトになるのです。必然的に、検索連動もしにくくなります。

これが、日本語ベースのサイトを翻訳する最大のデメリットなのです。

こうした課題を解決し海外で成功するためには、英語軸に加えて「普遍的なペインポイントに集中する」という戦略と合わせる形になります。こちらは、また別の投稿でお話します。

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